『中学生から知りたいパレスチナのこと』岡真里・小山哲・藤原辰史|“宗教対立”でなく“構造の暴力”として読む
- Yukina Mizushima
- 2025年10月10日
- 読了時間: 5分
更新日:2 日前

ニュースでは「宗教対立」や「中東紛争」と語られ、
いかにも私たち日本人には理解しづらい、複雑で遠い問題のように見せかけられてきました。
しかし、本書ではその原因を”徹頭徹尾、ヨーロッパの問題”と断言します。
パレスチナ問題は、旧約聖書やクルアーンの時代にさかのぼって、イスラーム教徒とユダヤ教徒、アラブとユダヤの関係が……というような話にされ、中東地域で起きている中東の問題のようにされていますが、そうではありません。徹頭徹尾、ヨーロッパの問題がパレスチナに押し付けられているのです
そして、“わかりにくさ”の正体――
問題の原因を覆い隠してきた構造そのものを、鋭く、そして誰にでもわかる言葉で解き明かしていきます。
事実で見る「パレスチナ問題」の現在
国連人道問題調整事務所(OCHA)の報告によると、
2023年10月7日以降のガザ地区での死者数は3万5,000人以上(うち約7割が女性と子ども)に達しています。
これは、OCHAが2024年10月3日に発表した
Humanitarian Situation Update #319: Gaza Strip に基づく最新の統計です。
一方、イスラエル側の死者数は約1,200人。
大半は2023年10月7日の初期攻撃によるもので、その後の交戦では数百人規模にとどまります。
つまり、犠牲者数の比率はおよそ30倍にもなり、
OCHAはこれを
“one of the heaviest civilian tolls in recent history(近年で最も深刻な民間人犠牲の一つ)”
と表現しています。
当初、私たちはこの出来事を「ハマスによるテロ攻撃への報復」として報じられるニュースで知ったかもしれません。
しかし、実際にはこれは一度きりの争いではなく、長い年月をかけて続いてきた占領と排除の歴史の延長線上にある出来事です。
国連をはじめとする多くの国際機関は、イスラエルによるガザへの攻撃を「報復」ではなく、パレスチナ人を土地から追い出すための民族浄化(ethnic cleansing)の一環として警告を発しています。
『中学生から知りたいパレスチナのこと』の内容と魅力
『中学生から知りたいパレスチナのこと』は、パレスチナとイスラエルの対立を「宗教」や「民族」の問題としてではなく、ヨーロッパが生み出した植民地主義の構造の問題として捉え直す一冊です。
本書では、植民地支配とレイシズム(人種差別)の歴史がどのようにイスラエル建国へとつながり、そしてその矛盾が現在のガザ攻撃にまで連なっているのかが、三人の研究者によって丁寧に語られます。
• 岡真里さんは、ヨーロッパの植民地主義が「人種」という概念を生み出し、信仰の差別を「血」の差別へと変えていった過程を明らかにします。
• 小山哲さんは、ナチズムや植民地主義の歴史をたどりながら、人間を「我々」と「彼ら」に分ける近代社会の「制度」に疑問を投げかけます。
• 藤原辰史さんは、戦争と経済と食糧の関係から、「飢えてもいい人の選別」を読み解き、私たち日本人が抱える食品ロスの問題にも、その思想が潜んでいることを訴えます。
いずれの論考も、遠い中東の出来事を“他人事”にせず、私たちが暮らすこの社会の中に潜む構造的暴力として考えさせられる内容です。
単なる国際問題の解説ではなく、私たちの生き方を問う社会思想書として読めるのが本書の最大の魅力です。
戦争をエンターテイメントとして消費しない
私がこの本を読んで心に深く残ったのは、岡真里さんの次の言葉です。
アメリカの奴隷制やホロコーストを描いた映画はたくさん制作されています。みんなそういう映画を見て、でも、実は同じことがこの世界において、むしろ洗練された見えない形で続いている。(...)私たちのこの生活自体が現代の奴隷制によって成り立っている。そこに目を向けることがないとしたら、私たちはこれらの作品が告発している人間性に反する暴力を、ただのエンターテイメントとして消費しているということです。
私は今、第一次世界大戦下のフランスを舞台に、
移民とユダヤ人の愛を描くミュージカル作品を制作しています。
この作品でユダヤ人は圧倒的な被害者として描かれますが、現代のイスラエル・パレスチナ問題を無視しては結論を描けないと感じ、本書を手に取りました。
戦争を題材にした作品は世界中に数多くあります。
けれど、日本のミュージカルでは、悲しみや犠牲を語るだけで、
その背後にある経済・政治・思想の構造に真っ向から向き合った作品は少ないように感じます。
ミュージカルは感情の芸術であるがゆえに、個人の心情に焦点を当てがちです。
しかし、私たちが生きる現代社会の背景には、
”現代奴隷制資本主義の罪、現代の「地球規模の身分制社会」”確かに存在します。
この構造に無自覚なまま物語を描くことは、
暴力を「悲劇」として消費することに加担するかもしれない——
本書を通して、そのことに強く気づかされました。
まとめとおすすめ|こんな人に読んでもらいたい
『中学生から知りたいパレスチナのこと』は、
「ガザの惨状を伝える本」ではなく、
“なぜ世界がこの構造を止められないのか”を問い直すための本です。
宗教・民族・テロというニュース的な切り口ではなく、
その背後にある植民地主義・経済・人種主義の構造を掘り下げることで、
私たちが暮らす社会の「土台そのもの」に目を向けさせてくれます。
中学生にも理解できるやさしい言葉で書かれていますが、
内容は大人こそ真正面から読むべき深さがあります。
こんな人におすすめです
• 「パレスチナ問題は難しい」と感じてきた人
• ニュースを見ても何が正しいのか分からないと感じる人
• 歴史や社会構造を根本から理解したい人
• 教育や表現の立場から“語る責任”を考えたい人
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<執筆者>
水島由季菜|プロデューサー/脚本家
株式会社Protopia代表。ミュージカルの新しい形を探りながら、日々作品と真摯に向き合っています。
このブログでは、本や舞台をきっかけに「より良い未来」を考えるレビューをお届けします。

