『ぜんぶ運命だったんかい』笛美|“おじさん社会“でのジェンダー格差を暴く
- Yukina Mizushima
- 9月11日
- 読了時間: 4分
更新日:9月19日

気がつけば、おじさんたちの中でポツリと仕事をしていませんか?
決定権を握っているのはいつもおじさんで、
機嫌を伺いながら、必死に資料を説明している自分はいませんか?
いつも飲み会では、率先しておじさんにお酌をしていませんか?
それ、もしかしたら“おじさん社会”に洗脳されているのかもしれません。
そんな「おじさん社会」の実態を、涙と笑いで描き出したのが笛美さんのエッセイ『ぜんぶ運命だったんかい』―おじさん社会と女子の一生―です。
本題に入る前に──セクハラという概念
「セクシャルハラスメント」という言葉は1980年代、女性学やフェミニズムが社会に訴える中で明確になった概念です。
それ以前は、女性が職場で性的なハラスメントを受けても「仕方がない」「働く上で当たり前」とされてきました。
さらに、女性がそれを拒めないことで男性客が集まり、利益が生まれ、結果的に女性の雇用が拡大するという、歪んだ構造すら存在していました。
この歴史を踏まえると、今の私たちが「仕事だから仕方がない」「できる女性の振る舞い」と信じていることの中にも、まだ言葉になっていない新たなハラスメントや差別が潜んでいる可能性があります。
『ぜんぶ運命だったんかい』笛美の内容と魅力
本書では、社会がまだ認定しきれていない「ハラスメント」や「格差差別」にあたる事例が、笛美さん自身の等身大の言葉で語られています。
例えば、
• カラオケでおじさん達が楽しめるような選曲をする
• 身体を張ってまで飲み会を盛り上げる
• 仕事がうまくいけば「可愛かったから仕事に呼ばれた」と言われる
• 男性の意見の方が聞き入れられやすいという傾向を利用せざるを得ない
などなど。
さらに、働く女性と結婚の葛藤がありのままに綴られ、中盤ではジェンダーギャップ指数への気づきが語られます。
当時(2018年)の日本のジェンダーギャップ指数は148カ国中110位。
「ジェンダーギャップ指数が表しているものの正体は『女性が味わう不条理の指数』なんじゃないかって。」
こんなに指数が低いにも関わらず、もしあなたが“不条理”を感じていないとしたら──。
それは“不条理”が“当たり前”とされ、格差に麻痺しているのかもしれません。
思い出してほしいのは、1980年代までセクハラも「仕方がない」「働く上で当たり前」とされていたこと。
概念や言葉が生まれる前は、不条理は不条理としてすら認識されなかったのです。
気づいてしまったジェンダー格差と痛み
この本を読んでから一週間、私はショックで立ち直れませんでした。
思い返せば「女性だから」と持ち上げられたり、蔑ろにされたり、企画が通らなかったり──。
全部自分の実力だと思ってきたことが、良くも悪くも「女性だから」で片づけられていたのかもしれません。
ちなみに、2025年の日本のジェンダーギャップ指数は148カ国中118位へと後退。
政治もビジネスも先進国の中で最下位レベルです。
女性の管理職比率は依然として低く(127位)、昇進・賃金・ケア負担の格差は根強く残っています。
「女性だからではなく、実力で管理職に」という声をよく耳にします。
でもその“実力”とは何でしょうか。おべっかやハッタリ、見せ方のうまさ──。
それは「おじさん社会の世渡りスキル」であって、本当の実力とは違うはずです。
本当の実力で評価される社会をつくるには、女性を筆頭に“おじさんたちが評価したくない人”をあえて登用することが必要です。
だから、まずは頭数の調整からでもいい。今ではそう考えています。
私はこの本をきっかけに、働く女性に降りかかるジェンダー格差をテーマにしたミュージカル『最果てのミューズ』を制作しようと決めました。
仕事で自己実現をめざす女性たちにこそ、「ジェンダー格差の実態」を知ってもらいたいと思ったからです。
まとめとおすすめ
『ぜんぶ運命だったんかい』―おじさん社会と女子の一生―は、女性たちが直面している身近なジェンダー格差を実感させてくれる本です。
読み進めるうちに「私も同じ経験をしてきた」と気づき、社会の構造と自分の人生がどれほど結びついているのかを理解できます。
もしかしたら、あなたの悩みも「ジェンダー格差」が原因かもしれません。
こんな方におすすめです
• 職場で「おじさん社会」にモヤモヤを感じている方
• 同調圧力やジェンダーの問題に共感できるエッセイを探している方
• 笑いと涙を通して気持ちを軽くしたい方
• 自分の働き方や立場を考え直したい方
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<執筆者>
水島由季菜|プロデューサー/脚本家
株式会社Protopia代表。ミュージカルの新しい形を探りながら、日々作品と真摯に向き合っています。
このブログでは、本や舞台をきっかけに「より良い未来」を考えるレビューをお届けします。

