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『世界一やさしいフェミニズム入門』山口真由|200年の歴史をコンパクトに

  • 執筆者の写真: protopia musical
    protopia musical
  • 10月15日
  • 読了時間: 6分
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今でこそ「女性の権利」や「男女平等」という言葉は当たり前に聞きますが、

近代社会の成立と、女性の権利が奪われていく流れは深く結びついていました。


そんな時代に、女性の意識を大きく揺さぶったのがフランス革命です。

「自由・平等・博愛」というスローガンのもとで多くの人が人権を求めて立ち上がりましたが、

イギリスの思想家 メアリー・ウルストンクラフトは

その「人」の中に“女性”が含まれていないことに気づき、声を上げました。


ここから、フェミニズムの約200年にわたる歴史が動き出します。





多様化するフェミニズムの現在


ただし、一口にフェミニズムと言っても、その時代や社会のあり方によって主張はさまざま。

現代ではむしろ、多様で一面的には語れない考え方として広がっています。



リベラル・フェミニズム

国家と家族が「公」と「私」に分けられたことで、女性が家庭に閉じ込められた構造を批判。

女性も「個人」として社会に参加し、生きる自由を保障されるべきだと訴える。


マルクス主義フェミニズム

家族と社会(市場)の分離によって、女性の家庭労働が無価値とされていることを問題視。

生産の基盤を支える女性の労働を可視化し、資本主義の構造的変革を求める。


ラディカル・フェミニズム

家父長制や性の二分法そのものを問い直し、出産や性からの解放を目指す。

生殖技術などを通じて、女性が“自然”の束縛を超えた真の「個人」として生きることを提唱。


エコロジカル・フェミニズム(エコフェミニズム)

女性と結びつけられた「自然」を肯定し、人間中心主義への抵抗を示す。

支配や搾取ではなく、自然と共生する女性的価値を重視する思想。


カルチュラル・フェミニズム

女性には他者への思いやりやケア、共感といった独自の文化的価値があるとする。

それを攻撃的な男性文化よりも優れたものとして積極的に肯定する立場。


ブラック・フェミニズム

白人中心のフェミニズムを批判し、人種差別とジェンダー差別の交差に注目する。

黒人女性の経験を通して、抑圧の重なりを可視化した理論を打ち立てた。


クィア・フェミニズム

男女の二分法を問い直し、性やジェンダーの多様性を尊重する立場。

「女性/男性」という枠組みそのものを解体しようとする。


インターセクショナル・フェミニズム

人種・階級・性別など、複数の差別が重なり合う現実を分析する。

「誰のためのフェミニズムか」を問い、より包摂的な社会を目指す。


デジタル・フェミニズム

SNSやオンライン空間で声を可視化し、共感と連帯を広げる運動。

#MeTooなど、個人の発信が社会変革を生む新しいフェミニズムの形。


カルチャー系フェミニズム(ライオット・ガールなど)

音楽やアート、ZINEなど文化的表現を通して社会に訴えるムーブメント。

性に寛容で表現を通じて抵抗する姿勢が特徴。



フェミニズムは「女性の権利運動」として始まりましたが、

やがて「女性の生きやすさ」を問い直す社会思想へと発展していきます。


現在では、同じフェミニズムという枠の中にも、多様で時に対立する主張が共存しています。





山口真由の『世界一優しいフェミニズム入門 早わかり200年史』内容と魅力


『世界一やさしいフェミニズム入門 早わかり200年史』は、

200年にわたるフェミニズムの流れを、知的かつ体系的にたどる一冊です。


ウルストンクラフトが掲げた「女性の権利」から始まり、

労働、家族、母性、セクシュアリティ、環境、そしてジェンダーの多様性へと、

フェミニズムの思想がどのように変化してきたのかを整理してくれます。


また、ある時代の主張が次の時代に受け継がれる一方で、

「男も女も男になれ」としたアメリカ型フェミニズムと、

「男も女も女になるべし」とした日本のリブ運動のように、

国によって方向性がまったく異なる流れが並行して存在していたことを教えてくれます。


フェミニズムの概念そのものを学ぶというより、

“思想としてのフェミニズムがどう時代とともに変化してきたか”を感じ取れる入門書であり、

現代に生きる私たち日本人女性がどんなフェミニズムを語るのか、

静かに思考を促してくれる一冊です。





西洋と東洋のあいだで揺れる、日本のフェミニズム


この本を購入したのは2年前でしたが、

この本を手にして初めて、西洋のフェミニズムと日本のフェミニズムの考え方が異なることを知りました。


欧米のフェミニズムが「男も女も男になれ」という方向に進んだのに対して、

日本のリブ運動は「男も女も女になるべし」と、母性や共感の価値を肯定する道を歩んだことを知り、

その後私は、卑弥呼の時代から現代までの日本のジェンダー格差を調べました。


そこで見えてきたのは、世界と日本では“生き方そのもの”が異なるということです。


世界共通の課題は、

• 男が上で女が下という「階級的差別」

• 男が外で女が内という「役割的差別」

• 男が理論で女が感情という「思考的差別」

• 男は革命で女は伝統という「認識的差別」


一方、日本の課題は、こうした課題を孕みつつ、

二元論的な構造では語りきれないことにあります。

私たちはリベラル・フェミニズムが掲げる「家庭」からの解放を願い、

マルクス主義フェミニズムが問題視する「無償の家庭労働」に嘆きながらも、

エコフェミニズムのように「自然」や「母」を愛し、

カルチュラル・フェミニズムのように「思いやり」や「調和」を美徳とする文化の中で生きています。


つまり、日本のジェンダー問題は「男性対女性」という単純な構図ではなく、

「西洋対東洋」という価値観のせめぎあいの中にあります。

文明開化以降に取り入れた西洋的な個人主義と、

古来よりアニミズムをはじめとする多様な信仰や、

“和”を重んじる集団的な価値観が混ざり合い、

その狭間で、私たちの“男女観”や“生き方”は揺れているといえます。


この本を読んでから、私は今もなお、

“私たち日本人女性が語るべきフェミニズムとは何か”を考え続けています。





まとめとおすすめ|こんな人に読んでもらいたい


『世界一やさしいフェミニズム入門 早わかり200年史』は、

フェミニズムという言葉を“思想の流れ”として理解したい人にぴったりの一冊です。


フェミニズムの歴史を「女性の権利運動」としてだけでなく、

近代社会の成り立ちや資本主義、家族観、宗教観などと結びつけて描いており、

「なぜこの考えが生まれ、どう変化してきたのか」を整理しながら学ぶことができます。


また、アメリカやヨーロッパで発展したフェミニズムと、

日本独自の価値観の中で形づくられてきたフェミニズムの違いにも触れられるため、

海外の議論をそのまま輸入するのではなく、

「日本人としてどんなフェミニズムを語るか」を考えるきっかけになります。


社会問題としてのジェンダーに関心がある人だけでなく、

歴史や思想を通して“生き方”を見つめ直したい人にもおすすめです。



 こんな人におすすめ


•  フェミニズムの基本を歴史の流れで理解したい人

•  日本と欧米のフェミニズムの違いを知りたい人

•  「男女平等」という言葉の背景を深く考えたい人

•  社会思想としてのフェミニズムに興味がある人

•  ジェンダーをめぐる議論を、感情ではなく知識で捉えたい人






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