『女性差別はどう作られてきたか』中村敏子|古代から続く“女は劣る”という思想
- Yukina Mizushima
- 9月29日
- 読了時間: 6分

「うちは平等な家庭だ」と思っていても、
気づかぬうちに“家父長制”のルールに従っていませんか。
夫が外で稼ぎ、妻が家を守る。
決定権はいつの間にか男性の側に傾き、女性は「補助」の役割で男性のケアやサポートをする。
これは自然な役割ではなく、初めは平安時代に導入された中国の律令制度、次に明治時代に輸入された西洋の法概念とともに、徐々に社会制度として定着していった価値観です。
中村敏子『女性差別はどう作られてきたか』は、
西洋でつくられた男女差別の考え方や制度が、明治時代の日本にどう持ち込まれ、家庭や社会に根づいてきたのかをわかりやすく解説しています。
家事・育児分担はまだ“女性の仕事”
SDGs(持続可能な開発目標)の目標5「ジェンダー平等を実現しよう」では、無償の家事・ケア労働を認識・評価することが重要な課題とされています。
その具体的な指標が「5.4.1 無償の家事・ケア労働に費やす時間の割合(性別、年齢、場所別)」です。
総務省「社会生活基本調査」(2021年)の結果をこの指標に当てはめると、日本の現状が浮かび上がります。
6歳未満の子どもを持つ共働き世帯では(黄緑の実線を参照)、夫の家事関連時間は1日あたり約1.5時間にとどまる一方、妻は約6時間に達しており、夫婦間で大きな差があります。
さらに夫の家事関連時間に注目すると、共働き世帯(約1時間21分)と専業主婦世帯(約1時間17分)でほとんど変わりません。
つまり、妻が働いていてもいなくても、夫の家事時間は大きくは増えていないということです。
ここから「共働きが進めば家事分担も自然に平等になる」わけではない実情が見えてきます。
これは単なる労働時間の違いではなく、「家事・育児は女性が向いている、担うもの」という固定的な役割意識が夫婦の間で依然として強く残っていることを示しているのではないでしょうか。
中村敏子『女性差別はどう作られてきたか』内容と魅力
『女性差別はどう作られてきたか』は、タイトルの通り女性が不平等な立場に置かれる要因となった歴史をたどり、現在の日本の実情を解明しようと試みます。
とりわけ注目すべきは、「夫婦」という身近な単位に焦点を当てている点です。
古代ギリシャの哲学やキリスト教の教義が女性を“劣る性”“従う存在”と位置づけたこと。
ロックの社会契約論や、それを受け継いだ近代の法律が、夫婦という契約を通じて妻を夫の支配下に置く仕組みを正当化したこと。
そして産業革命以降、夫は稼ぎ手・妻は主婦という役割分担が固定化されていったことなど、
西洋で古代から作り上げられた女性差別が、明治時代の日本に導入されるまでの過程がわかりやすく説明されています。
歴史の教科書で確かに習った偉人や歴史的出来事が、現代日本の夫婦間のジェンダー格差につながっており、先に触れた家事労働時間の差も含めて、自分たちの生活に影響を及ぼしていることに驚きます。
女性は男性と同等ではなく、子どもと同等という感覚
これまで私は何冊ものジェンダー格差にまつわる書籍や、その歴史を紐解く書籍を読んできましたが、なぜ男性が女性を「愚かな性」と決めつけ、権利を与えず支配しようとするのか、その心理がずっと腑に落ちずにいました。
しかし本書を読んで、ひとつの手がかりを得ました。
以下は、西洋文明が”子ども”の存在を「発見」した経緯の引用です。
また子どもも、以前は大人と共に働いており、単にサイズが小さいだけで不完全な大人であると考えられていました。ですから夜更かししようが、酒を飲もうが人々は気にしなかったのです。しかし産業革命が起こった18世紀頃から、「子ども」は大人とは違う存在であることが「発見」されていきます。
この記述を読んで私の頭に浮かんだのは、現代における18歳未満への選挙権付与の議論です。
現代に生きる大抵の大人は、「子どもが自分で候補者を選ぶのは難しく、大人の言いなりにいりかねないからやめた方がいい」と考えると思います。
この感覚、この感覚を男性は女性に持っていたんだと感じました。
実際、日本で女性参政権をめぐる議論でも「女性が自分で候補者を選ぶのは難しく、夫の言いなりにいりかねないからやめた方がいい」という意見が記録に残っています。
子どもを扱うようなまなざし。だからこそ「女・子ども」という言葉でひとまとめにされてきたのだと気が付きました。
私も子どもがどんなに「自分で考えられる能力がある」「大人と同じでないのは不平等だ」と選挙権を訴えても、それは仕方がないことだと思い、しつこければあしらってしまうかもしれないと思いました(深く反省します)。
それと同じように、男性はこれまで女性の意見を聞かず、私たち女性は子どものようにあしらわれてきた。だから、女性がどんなに訴えてもなかなか女性差別がなくならないのだと。
子どもの方は、「子ども」は大人とは違う存在であることが「発見」され、それゆえ彼らは、独自の世話や教育が必要なのだと考えられるようになったと言います。
一方で女性はいまだに、“劣る存在”と決めつけられ続けられています。
女性は改めて、男性と「同等の能力を持つ大人」だと、男性たちに「再発見」されなければ、固定観念に根ざしたジェンダー格差は消えていかないと強く感じました。
まとめとおすすめ|こんな人に読んでもらいたい
『女性差別はどう作られてきたか』は、フェミニズム運動の歴史を語るのではなく、女性差別の要因そのものを古代ギリシアまでさかのぼってわかりやすく解説してくれます。
私たち日本人には理解しづらい西洋の感覚や価値観を丁寧に紐解いてくれるので、女性差別の起源や原因を深く知りたい人に特におすすめです。
また、夫婦間のジェンダー格差を歴史の大きな流れの中で一貫して扱っている点は、他の書籍にはあまり見られないユニークな特徴です。歴史上の思想や制度が、現代日本の「家事・育児分担の不平等」にまでつながっていることを実感できます。
こんな人におすすめ
• 女性差別の「起源」や「構造」を歴史的に理解したい人
• 西洋思想や宗教とジェンダーの関係に関心がある人
• 夫婦間の不平等や家庭内の役割分担を考えたい人
• 現代日本のジェンダー格差の背景をより深く知りたい人
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<執筆者>
水島由季菜|プロデューサー/脚本家
株式会社Protopia代表。ミュージカルの新しい形を探りながら、日々作品と真摯に向き合っています。
このブログでは、本や舞台をきっかけに「より良い未来」を考えるレビューをお届けします。




