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『興亡の世界史 人類はどこへ行くのか』大塚柳太郎ほか|西洋史観を超えて、人類の歩みを問い直す

  • Yukina Mizushima
  • 9月13日
  • 読了時間: 5分

更新日:9月19日


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人口爆発、環境危機、宗教対立、民族紛争──。

近年はSDGsの浸透によって、

「社会課題はみんなで協力して解決していくものだ」という認識が

広く定着してきたように思います。

 

ですが、私たちが「社会課題」だと信じてきたものは、

実は誰かの利益のために意図的に形づくられてきた側面があります。

 

『興亡の世界史 人類はどこへ行くのか』は、

各分野の研究者が人類の歴史を見直し、

100億人時代を生きる私たちに「新しい未来を選ぶためのヒント」を与えてくれる一冊です。

 

 



女性の自己実現と人口政策

 

女性にとって、仕事と結婚、出産・育児の両立は、人生を考える上で欠かせない要素です。

 

今でこそ私たちは、自分の選択によってライフステージを設計できるようになってきました。しかしかつて女性は、避妊はおろか、出産を拒むことを許されない時代を生きていました。

 

国が人口増加を目標に掲げていたからです。望まなくても子どもを産まなければならない──それが既婚女性の悩みでした。

 

その後、時代は変わり、世界は人口爆発を危惧するようになりました。

食料やエネルギー、感染症など、あらゆる社会課題を人口拡大が生み出していたからです。

 

そこで注目されたのが「出生率のコントロール」と「女性の権利」。

1994年の国際人口開発会議では、*リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(妊娠・出産・育児における女性の権利)*が国際的に重視されました。

女性が自らの意思で妊娠や出産を選べるようになった──それは、女性が学ぶ自由や働く自由をも得たことを意味します。

 

この取り決めは、地球規模での人口増加の抑制を目指す立場からも、女性の教育機会の拡大や社会的地位の向上が出生率の低下に寄与するため、懸命な取り決めと評価されています。(第2章:人口からみた人類史より)

 

表面的には「前向きな変化」に映るかもしれません。

けれども実際には──人口増加を目指す時代には女性の権利は抑え込まれ、人口抑制を目指す時代には自己実現がしやすくなる。

女性たちの権利は、人口調整の都合によって左右されてきた歴史があるのです。

 




『興亡の世界史 人類はどこへ行くのか』大塚柳太郎ほかの内容と魅力

 

このように、本書は「今の私たちの現状」と「歴史」がどう紐づいているのかを様々な角度から教えてくれます。

 

              •            第1章 世界史研究の現状と課題(歴史を「今」に活かす視点)

              •            第2章 人口からみた人類史(100億人時代、環境と資源の制約)

              •            第3章 海と人類の移動・定住(グローバル化・移民問題とのつながり)

              •            第4章 宗教がもたらす対立と共生(宗教対立と共存の歴史)

              •            第5章 アフリカの現状(人類の原点と未来の課題)

              •            第6章 世界史と日本(日本の立ち位置をどう考えるか)

              •            第7章 鼎談(文明の興亡から何を学べるか)

 

私が特におすすめなのが、第2章 人口からみた人類史(100億人時代、環境と資源の制約)と、第5章 アフリカの現状(人類の原点と未来の課題)です。

 

第5章では、アフリカの犠牲と赦しの文化についてが書かれています。

 

例えば、ヨーロッパ市民の『自由』の裏には、アフリカの犠牲がありました。ヨーロッパの市民革命は日本を含む世界に影響を与えた重要な民主化の出来事ですが、市民階級の豊かさを象徴する角砂糖の甘さは、無数のアフリカ人奴隷の命によって支えられていました。

市民が「自由」を謳歌したその影で、無数のアフリカ人奴隷の人生が搾取され、沈黙のまま奪われていたのです。

 

ルワンダの民族対立もまた、植民地支配によって「発明」された区分でした。ドイツやベルギーは人々を分断・固定化し、効率的に徴税や労働動員を進め、「アフリカ=野蛮」というイメージを植えつけました。

 

そしてアフリカの人々の価値観を象徴する出来事についてです。南アフリカ。ネルソン・マンデラ大統領は長く続いたアパルトヘイトを終わらせ、復讐ではなく「和解」を選びました。真実和解委員会(TRC)は、赦しによって社会を立て直そうとした象徴的な試みでした。

 

これだけの犠牲に対して“赦し”を土台に前進しようとする世界がある。そのことに私は深く打たれました。




 

西洋思想に侵食されている自分

 

この本を読んで、自分がいかに歴史を知らずに今を苦しんでいたか、そしてその歴史の裏で糸を引いていた西洋思想に、自分の考えがどれほど侵食されていたのかに気づきました。

 

私たちが「正しい」「当然」だと信じていることは、本当に正しく、当然のことなのでしょうか。

 

アフリカの人々の思想には、私たちが学ぶべき「異なる価値観」が数多くあります。

それは、ヨーロッパ人によるイメージ操作によって「野蛮」と刷り込まれてきた姿とは全く逆のものでした。

 

正直に言えば、私もどこかでその偏見を抱いていました。

けれど実際には、アフリカの人々が示してきた「寛大さ」や「共存」の思想こそ、これからの未来に不可欠な力だと感じます。

 

同時に、私たち日本人自身も自分達を見つめ直さなければならないと感じます。

西洋思想に侵食される前の私たちは、何を価値とし、どう工夫して人々と暮らしていたのか──。


私が制作するミュージカル『最果てのミューズ』では「私たちらしい選択」で未来を変える物語を描いていきたいと思います。

 




まとめとおすすめ

 

『興亡の世界史 人類はどこへ行くのか』は、「文明や帝国の興亡」という枠を超え、人類史をマクロに見直すことで、現代の課題を新しい角度から問い直す試みです。

 

決して軽い読み物ではありませんが、気になる章だけ読んでも十分に学びがあります。


こんな方におすすめです

              • 人類史や文明史をマクロに学びたい方

              • SDGsや社会課題の背景を歴史から考えたい方

              • 「社会課題の裏に誰かの利益」という視点に興味がある方

              • 西洋史観を超えて新しい価値観に触れたい方



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<執筆者>

水島由季菜|プロデューサー/脚本家


 株式会社Protopia代表。ミュージカルの新しい形を探りながら、日々作品と真摯に向き合っています。

このブログでは、本や舞台をきっかけに「より良い未来」を考えるレビューをお届けします。




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